( 6/24[木])セレーゾの手腕

最近、チームの不振(あの戦力で一応、3位なんだけど)に伴い、セレーゾ批判もちらほらみるけど、ちょこっと僕なりの見解を書いてみます。

チームの成績が期待以下の場合、どんなにすばらしいサッカーをしようと監督が批判されるのはいたしかたない。結果がすべてである監督の評価に批判が生まれることは当然だろう。しかし、それは結果に対しての批判であって、実際の所は監督が構築したチームの質、采配に原因があるとは限らない。つまりは監督に問題があったから、現在の成績になっているとは必ずしも限らないのである。それでもなお、批判は受け入れなければならないのががサッカーの監督ではあるのだが…。(ちなみにイングランドスタイルのチームマネジメント(戦力補強)も任されている形式ならまた話は違うが)

現在のアントラーズのチームにおいて、チームの成績に不満を持つサポーターが少なくないのは、これまでの栄光の歴史を考えれば当然かもしれない。しかし、現在のアントラーズは優勝を狙うだけの十分な戦力を有していないのが現実だ。確かにベストメンバーがそろえば、優勝を狙える程度の戦力はかろうじてそろっている。だが、選手層は中盤を除いて決して厚くはないし、FWに関して言えば、優勝を狙える戦力は1人も見あたらず、そこにいるのは明らかにリーグでも2流の選手と、未来に期待をよせるルーキー(とそれに近い)選手だけだ。さらに言えばFWがチーム力の足を引っ張っているのは間違いなく、FWに十分な戦力がいれば優勝を狙えるだけの戦力と呼べるだろう。

話を戻そう。つまりは成績についての批判を受けるのは監督としての仕事だが、実際にはセレーゾには優勝を義務づけられるだけの戦力は与えられていないと言える。むしろ、明らかに足りない穴(FW)をJリーグでも屈指のやりくり上手と選手の育成能力によって補い、なんとか優勝戦線に踏みとどまろうとしている。

一番わかりやすい例は野沢のFW起用だろう。もともと足技に優れる彼を中盤から前に持っていくことで彼の悪癖である不用意なプレーによるカウンターの危険を軽減するとともに新たな才能を徐々に引き出している。彼が活躍をしたのは彼の才能だけではなくそこに的確な起用と指導があったからに他ならない。

そしてさらにセレーゾの手腕においてすばらしい点は高度な選手交代である。もし、あなたが試合終盤にみせるMFからDF、FWからDFへの選手交代によって「また守備に入りやがって」などと思っているとしたら、それはよほどそれはチームの現状を把握していないか、選手の能力を過信していると言わざるをえない。少なくとも今のアントラーズにはかつての真中、本山のようにチームの流れを引き寄せるスーパーサブの様な選手は見あたらないし、かといって、長谷川の様に気持ちを持った選手や経験を兼ね備えて試合に入ってこられる選手はいない。これを解決するためにセレーゾが採った方法はかつての日本代表の監督のトルシエがとった唯一のすばらしい戦術、選手のユーティリティ化によるシステムのダイナミックな変更だ。

セレーゾがDF以外の選手に代えてDFを入れる場合は新しく入るDFのポジションにいた選手が前へスライドし、押し出された選手が抜けた選手の所へスライドする。FWを代えた場合はDFがMFへ、MFがFWへといった具合だ。アントラーズには幸い、新井場、名良橋と攻撃力のあるDFや才能豊かなMFが多い。つまり、これによって攻撃陣の戦力不足を別のポジションの才能によって補っている。これは決して思いつきでできることではなく、事前の準備や細かい経験値を常に積み重ねさせることによって可能となる。セレーゾが就任するまでのアントラーズは各ポジションがそのポジションのエキスパートの様な選手によって構成されていたが(それ以前には石井、内藤などの限られた選手のみが“ユーティリティープレーヤー”として存在した)、セレーゾは自身の指導と采配によってこれを可能とした。少なくともこの点はもっと評価されてしかるべきだが、今の鹿島のサポーターでこの点を“選手の成長”と勘違いしている人は少なくないはずだ。

また、この采配は相手にマークのズレなども誘発させている。相手は自分のマークが違うポジションにスライドされているため、修正を要され、それがチーム内に浸透するまではスペースも生まれることになる。その上で、さらに同じポジション同士の選手を変更することで、新しくマークに付いた選手になれた頃に新しい特徴の選手が出てくることでさらなる修正を要される。コレによってアントラーズの攻撃陣がより能力を発揮できる下地が生まれることは言うまでもなく、明らかな能力不足のFWでもかろうじてチームの戦力として成り立っているのである。(その証拠に平瀬はセレーゾの元を離れたマリノス時代にはなにもできなかったではないか)

ポジションのスライドだけではなく、システム自体も試合中にダイナミックに変更されることも多い。基本は4-4-2だが、最近はFWに代えてCBの選手を入れ、新井場、名良橋をWBにあげることで3-5-2にすることもあるし、中田が復帰してからは中田をCBに入れることでの3バックへの変更も復活してきた。4バックのままでも、試合の流れによってはFWよりも才能の豊かなMF陣を生かすために1トップに変更して本山、深井などを4-2-3-1の3のサイドに配したりもする。

チームの戦力の事実をしっかりと受け入れ、セレーゾの采配に注目して見てみれば、彼がいかにチームの力を引き出しながら戦力のやりくりをしているかが見えてくるだろう。また、彼によって蓄積された各選手におけるユーティリティー能力は今後もチームにダイナミズムをもたらしてくれるだろうし、それは決して無駄にはならない。

最後に現在のアントラーズの成績の原因についてだが、責任は攻撃陣、つまりFWの戦力をそろえることのできなかったフロントにあるといって間違いないだろう。今シーズン、FWがきちんとチャンスにシュートを決めていれば、失わずに済んだ勝ち点はいくつあっただろうか?監督はよりFWにチャンスをもたらす下地を作ることはできるが、決定力不足を監督の指導力不足に押しつけるのはいかがな物だろうか。去年、フロントは秋田、相馬の解雇に付随して攻撃力のアップを約束したはずだ。その公約は未だ守られていない。まだ1stステージは1節残っているが、今後の2ndステージまでの間にどういった動きでサポーターに約束した公約を守ってくれるのか?この点を厳しく見守るべきだと思う。